冬の夜空。

「ねぇ見て」
「ん?」
「ほら、カラコン入れてんの、わかる?」
「ん、あぁホントだ」


「これが、ワタシ」
「これが、って?」


「こうすることで、距離を保ってるんだ」
「ふぅん」
「でも、必要なかったかな」
「ん?」
「へへ」


それ以上、彼女はなにも言わなかった。
明け方のファミレスで、ゆるやかな、のんびりとした時が流れていた。




今でも覚えている、彼女と初めて会った日のことを。


約束した駅に向かってみると、人はまばらで、
コンビニの前でしゃがんで何やらむっとしてる子や、
会社帰りの酔っ払いが何人かいる程度だった。


おかしいな。
メールの話では、もう来ているはずなんだけど。


改札口の近くをうろついてみる。
それらしき子はいない。


電話してみるか。


彼女に電話しようと思ったその時、携帯が鳴った。


「もしもし?」
「あー、アタシ。今どこにいんの? もう来てんだけど」
「え? ちょっと待って」


もう一度見渡してみると、さっきまでコンビニの前で
しゃがんでた子が、電話で話している。


まさか。


目があった。
「・・よぉ!」
こっちに向かって手を振っている。
あ、あの子なのか?


「いま行く!」
プチ
ツーツーツー


「よーよーよーよー!」
早足でこっちに向かってくる。
革のライダースジャケットと、ジーンズが妙に似合った、
かなりボーイッシュな女の子。


さっきまでのちょっと思いつめたような表情はどこかに消え、
笑顔で今、俺の目の前にいる。
間違いない、確かにこの声は、
何ヶ月も前から、いつも電話で聞いていたあの声だ。


「よぉ!驚いたっしょ」
「おぉ、ビックリした」


「へへ、じゃ、どうする?」
「そうだな、じゃぁ飲みにでも行くか?」
「おう!」


あの時、君に出会ったから。

あの時、君に出会わなければ。


冬の空が、やけにきれいだった。